カテゴリ:本( 5 )

きもちわるいものはきもちいい

ついに、『ユリイカ』に大森靖子さんが特集される日がきた。この時を待っていた。
ずっとずっと夢だった。

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私は月刊誌『ユリイカ』を編集する立場でも販売する立場でもない。ただの一読者である。毎号買っている雑誌というわけでもない。だが『ユリイカ』に個人的な思い入れがある。(以下『ユリイカ』の『』は外す)

高校生まで小説なんて一冊も読まなかったのに大学生以降、「ゲイジュツ」に精通しているのがカッコいいという意識があったのか文学や映画に俄然興味を持ち始めた。男子と話した時に馬鹿にされたくない負けたくないという変な対抗意識もあり、遅咲きながら知らない領域を知りたい欲が急激に湧いた。でもお金がなかったので名画座のオールナイト上映を観たり大学の視聴覚室に浸ったり、授業をさぼって図書館で気になる本を片っ端から読んだ。図書館でユリイカの存在を知り、「詩と批評」と表紙に書かれているの何かかっこいいなぁという単純な気持ちで初めは手に取ったが、読んでみると作家や映画監督のことが複数の専門家により解かれていてなるほどなと感心しっぱなしだった。ユリイカで初めて知る人もいて一層好奇心が掻き立てられた。当時の私には千円以上する雑誌は高かったので名画座にも行けなくなった金欠時は図書館の日当たりのいい席で「貸出不可閲覧用」の押印がされたユリイカ最新号を読むのが楽しみだった。

ゼミにこそ入らなかったが大学で好きな教授がいて、その先生の芸術論の授業がとにかく面白かった。その授業は履修してる学生数が数百人で初回の講義室の埋め尽くしようからこれはすごい授業なのかと思ったが、二回目から来る人が激減し、見渡して数えられるほどの人数になり、あとはいつも同じ人が大体同じ席に座って聴いていた。先生の話は面白いのだけど脱線も多く、世の中で売れている作家や芸術家をたまにひどく貶し、何の話をしているのか分からない時もあった。雨の日は先生が来なくて予告なく授業がなくなった。飲み会は絶対来ないとゼミに入っている子が教えてくれた。
その先生がゴダールも金井美恵子もヘンリー・ダーガーも教えてくれた。期末に提出するレポートは書く時間がありませんでした、と学部と名前さえ書いて出せば合格点はあげると先生は言っていて、多分それが履修学生数の多い一番の理由だったのかもしれない。逆に最高評価(5点)は出ないという噂があり、レポートをちゃんと書いてもいつも合格点しかくれなかった。でもたった一度だけ最高評価をいただいた。本当に嬉しくて、他の授業は落ちようが評価が悪かろうがどうでもいいなと思った。その時のレポート課題は確か「芸術とは何か」で、今読み返すと稚拙で読めたものではないが、先生の言っていることはこうではないかという自分なりの解釈をレポートなのに手紙のように書いた。

先生はいつも、
「芸術は一番無駄なもの。だが我々人間が自然災害や死など人間の力ではどうしようもできないものに対峙した時、芸術や信仰がその防波堤となる。結局最後に残るのは芸術だ、映画や音楽や文学は生活と一番遠い存在であるようで我々と切っても切り離せないものだ。」

「例えば昔、風を防ぐために窓を作った。ガラス一枚隔てた向こう側は暴風が吹き荒れている、けれどどうすることもできずただ窓の内側でじっと待つしかない、すると次第に神様に天気の回復を願うようになり、窓に絵を描いたり装飾を施すようになる、これが芸術だ。」

記憶で書いているので少し違っているかもしれないけれどそのようなことを言われていた。
芸術とはそういうものなのか!最も無駄なものが最も意味がある!とパズルが嵌ったように腑に落ち、今後これを大事に生きていこうと決めた。そして先生がユリイカで時々寄稿されているのを後から知った。

大森靖子さんに出会った時、芸術だ!と先生の言葉が浮かんだ。
「青い部屋」を初めて聴いた時、耳を通って入ってきた美しい世界に頭が真っ白になった。「青い部屋」のライナーノーツにあの時授業で知ったヘンリー・ダーガーのことが書かかれているのを読んだ瞬間、ダーガーの描く戦う子ども達や黄色やピンクの鮮やかな色彩、誰にも見つけられなかったダーガー自身が走馬灯のように脳内に押し寄せ、ああ、今つながった、あの時感心していた自分、馬鹿みたいな必死さで「ゲイジュツ」を追いかけてユリイカを読んでいた自分につながったと泣いた。大森さんがいつかのラジオで「きもちわるいものはきもちいい」とおっしゃていて、似た発言を何度かされていたのも、あぁ私の大事がここでもつながったと感動した。

大森さんの歌う言葉が好きで聴く度に心が解体する。まだ特集されていないと知ってからユリイカ大森靖子特集をずっと夢見ていた。この人やあの人が特集されるのに大森さんが取り上げられないのが悔しかった。お金がなかった私のそれまで偏狭だった世界がぐんと広がったように、高校生や大学生が学校の図書館や公共図書館に置いてあるユリイカを手に取り、大森靖子さんの存在を知り、大森さん以外の他の音楽や映画も好きになる、生きている世界が少しは面白いと思える、それってすごいことじゃないかと思った。SNSの方が影響力がある、ユリイカが何だ、最近の特集が理解できないという人も中にはいるかもしれない。でも私にとってユリイカは、未知の領域を知りたい、吸収したい、男子に負けたくないと今ではあり得ない程の異常な熱量で目を見開いていた自分を一つの過去として残すための大切な雑誌だ。

夢が一つかなった。
ありがとうございます。一人でも多くの人に読まれますように。

本屋で他の文芸誌と一緒に平積されているのを見て感無量になった。ドキドキしてまだ中が見れないので心が落ち着いたらそっと表紙を開いてみよう。




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by fukadaumiko | 2017-03-28 12:33 | | Comments(0)

清澄白河庭園にいきたい

買う量に対して読書量が追いついてないため、未読本がどんどん溜まっていく。
あまりよくないような気もするが、一冊を最後まで読み終わらないうちに他の本を読み始めるという複数冊並行型だからか、まれに読んでいたこと自体忘れてしまう時もあり、ある本なんて読み終えるまでに二年もかかったことがある。そんな風なのにまた新しい本を買ってしまう。

今読んでいる本は、吉井由吉と泡坂妻夫と桐野夏生と萩尾望都というカオスぶり。
庄野潤三もそこへ乱入するかもしれない。

そもそも、電車内、休憩中と細切れにしか読めないので複数冊になるのかもしれないが、暇が長くあれば一気に読んでしまいたいと本当は思っている。清澄白河庭園とか行って。あそこは東京で新宿伊勢丹の次に好きなところだ。伊勢丹には負けるけれど、近くに住みたいと思うほど庭園の空気が好きだ。春よ来いと切に願う。


****

過日、ある呑みの席で、自分がホストのパーティーにゲストを呼ぶとしたら、誰を呼びたいかと問われ、町田康と言いそうになったところを止め、みうらじゅん(スライドショーしてほしい)というとそれは無理だと言われ、楳図かずお(歌ってほしい)と言ったら失笑された。モーニング娘。と言うとそれも無理だと言われた。では誰ならばよいのかと逆に問うとその朝テレビで初めてみたモノマネ芸人の名前を出し、この人ならば来てくれるかもしれないと言われたけれどどう返したらよいかわからなくて黙っていた。
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by fukadaumiko | 2013-02-09 13:58 | | Comments(0)

勝手に文庫評

好きな作家やすぐに読みたいものはハードカバーでもちろん買うけれど移動中や会社の昼休みにも読みたい派なので文庫本を買う比率の方が多いと言えば多いかもしれない。

一番好きな文庫本(内容・作家は関係なしとして)のカバーを挙げるとするなら新潮社。あとは講談社学芸、中公、岩波が好き。新潮社文庫のカバーは作家別のカラーが好きだし、何というのか知らないがつるつるしすぎない紙質も良い。かばんに入れているとちょっとぼろっとしてくるのも紙らしくて何か好きだ。背表紙のフォントの大きさ、配置もいい。ただ著者近景があまり更新されておらずいつまでこの写真を使っているのかということがある。それはどこも同じだけどそれなら載せなくてもいいのでは、と思うことも。カバーをとっても新潮社は美しい、気がする。講談社学芸文庫のすべすべの手触りが好き。カバーの話ばかりだが、淡い色のグラデーションみたいなデザインも最初は安っぽいなと思ったけど本棚に以外にしっくり納まる。表紙の文字が斜めに配置されているのが良い。中公文庫は背が緑で統一されているのがよい、が本屋で欲しい作家が少し探しにくい。あとは日焼けしやすいのもちょっと残念。

逆に嫌いなのは角川文庫と講談社文庫。カバーがつるつるしすぎている。あとは表紙デザインが嫌なものが多い。角川でよかった表紙は寺山修司の少女写真シリーズだけかな。あれは手触りもよかった。集英社の漫画表紙シリーズは論外。

出版社も売ろうとして色々頑張ってるのかもしれないけど、ごちゃごちゃしないのが一番いいのになあ。と思う。作家に失礼というか何というか。集英社のミナを起用するのはいいとしても、作家を見てちょっとがっかりしてしまった。作家が悪いわけではないけどお互いに噛みあってない感じ。おそらくミナも皆川さんのこともよく知らない重役が適当に選んだのかな。宮沢賢治かアンデルセン、谷川俊太郎辺りだったら、ああなるほどと思ったのになあ。

以上、夜のひとりごと終わり。

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最近読んだ・読んでいる本は、町田康の新刊、大江健三郎、金井美恵子。岸田劉生の自伝。
早くも夏バテ気味で読むスピードはやや落ち。息抜きにフィービ&セルビ・ウォージントンのくまさんシリーズが読みたいけれどどこを探しても見当たらず。石炭を投げる?シーンが見たいのになあ。何も考えていないような、働くことを強く意識していないようなくまさんの顔が好きだ。
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by fukadaumiko | 2012-07-23 22:43 | | Comments(0)

車谷長吉

車谷長吉『世界一周恐怖航海記』を読み終えた。
非常に面白かった。この人の観察力はとにかくすごい。航海記だがところどころ文学論や人生観が挟みこまれている。武田百合子のロシア旅行記を彷彿とさせたが百合子さんのような世界の中へ溶け込んで行ってしまうような能動性はなく、他人と自己をぷつりと切り離したようなものの見方。でもなぜか清々しい気持ちになる。この人は自らを律することを使命のように感じていてそれは決して自虐ではないと本人も言っている。

無知であったが若さだけは自慢できた学生時代、全身黒で濃いアイメイクという、いかにもパンクロック然とした風貌の女の子がいて、怖い人だと思っていたが話してみると妙に気が合い、その子が車谷長吉『塩壷の匙』を絶対気に入ると思うから読んでみて、と貸してくれた。何だこれはというくらい面白かった。結局返し損なってまだ持っている。あの子の鋲がついた腕輪がかっこいいなとひそかに思っていた。



この世の救いのなさ。にも拘わらず、この世で救いを求めようとすれば、藝術・文学の創作以外には救いはない。」 (本文より)



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by fukadaumiko | 2012-04-24 00:43 | | Comments(0)

最近読んだ本

最近読んだ本色々。
気温の上昇と読む量、スピードは比例しているかもしれない。


町田康 『バイ買』
嬉しい新刊。読んだらチャーハンと焼きそばが作りたくなった。昔のような勢いがなくなってしまったような気もするけれどスタイルが確立されたのか最近の文章は読んでいて安心できる。それでいて面白い。もっと書いて欲しいなあ。宝くじのくだりが好き。


角田光代 『紙の月』
主人公の金銭感覚が次第に狂っていくのが恐ろしく、でも何となく共感できてしまうのがまた恐ろしい。
『曽根崎心中』も読みたい。


『本の雑誌 4月号』
早川書房に入りたくなった。入社試験を考えるページが面白い。5月号は図鑑、これも気になる。


高見順 『如何なる星の下に』
初めて読んだ作家。伊藤整に「天才的」と賞賛された、と帯にある。永井荷風の『濹東綺譚』へのオマージュを思わせるストーリー。でも荷風みたいに洗練されておらず何だかぐずぐずしていて、そのことに関して本文中自分でも突っ込みを入れている、そんな小説。浅草が舞台の小説は好き。


久住昌之&水沢悦子 『花のズボラ飯 2』
遅ればせながら2巻。花の着てる服を見るのが一番楽しみだったりする。そして花はズボラではない。


松島直子 『すみれファンファーレ 1』
母子家庭で育つ小学生、すみれちゃんの物語。決してすごく上手だと言えないのに味がある絵が好きだ。余白があってぎゅうぎゅうしていない感じも好き。すみれちゃんが本当に可愛い。現実感が足りなくてある種のファンタジーかもしれないけど、この絵にどろどろはいらない。読後感がたまらなくよい。2巻が楽しみ。
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by fukadaumiko | 2012-04-17 13:22 | | Comments(0)


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